私たちが得意とする絵付け技法『釉薬銅版転写による下絵付け』。
明治時代には陶磁器産業の絵付け技法として一時代を築きながら、現代はクラッシクな技法となった伝統的な下絵付けの技法を基礎に開発したこの絵付け技法をその背景も含めご紹介いたします。
(一つ一つ手作業で施される絵付け工程)
「釉薬銅版転写による下絵付け」技法の元になっている銅板転写による絵付けは明治中期には産業の技術として確立していたクラッシックなものであり、現代ではより効率的な絵付け技法が存在します。
しかしながら、この技法は、現在、私たち深山の工場のある瑞浪市稲津町小里にて、約170年前に存在し遠い過去にすでに廃業している【里泉焼】が弘化三年(1846年)に日本で初めてチャレンジした技法であり、そしてその精神を受け継ぐと言う想いもあり、私たちはその技法にて絵付けを行なっています。
(工場裏手にある「瑞浪の陶原祖」の石碑)
(里泉焼の器)
ただし、それは決してノスタルジックな感情ではなく、この技法から生まれる表情が、やきものである陶磁器にとって、効率では測れない、柔らかな風合いを醸し出すからです。
(絵付けに使用する転写紙。美濃和紙に絵柄を印刷しています)
この絵付けは技術的には【下絵付け】と呼びます。
何が【下】なのかと言うと、陶磁器の表面を覆うガラスコーティング【釉薬(ゆうやく)】の下に絵付けされているためです。
下絵付けの他には、【上絵付け】と【イングレーズ(イン=中、グレーズ=釉薬なので、中絵付け的なものです)】があり、それぞれ絵柄の特性に合わせて選択されるので、優劣ではないですが、その大きな違いは、下絵付けと後者二つでは絵が「焼き付く段階」と「温度」が異なるということです。
上絵付けとイングレーズは本焼成で完成した器に貼り付けてもう一度低温で焼き付けます。
それに対して下絵付けは、本焼成前に絵付けするため、その表面を覆う釉薬とともに本焼成で焼き付けます。
釉薬は本焼成の温度で溶けてガラス化しますが、その際に絵付けされた絵柄とガラスとが微かに混じり合い、その境界線がぼやけ柔らかな雰囲気となります。
(伝統的な銅版転写により絵付けした器『瀬縞(せしま)』)
私たち深山の基本は、素材を丁寧に形作り、暮らしの道具として最適なやきものとしての器を作り出すメーカーです。
そのため、私たちは数あるやきものの価値観の中から【素材の魅力をしっかりと引き出せた器を作れているか?】と言う点を大切にしています。
この銅板転写による下絵付けの技法は、単に同じ土地で生まれたと言うだけではなく、私たちの想いとも合致します。
この技法をベースに、現代の技術の発展を加えて開発したのが、【釉薬銅板転写による下絵付け技法】の器です!
頭に【釉薬】と言う単語が加わっています。
この技法では一般的な顔料を使わず釉薬により絵柄を絵付けしています。
これは、当時に比べ調合技術や印刷技術が発展した事で制作が可能となった転写で、これにより絵付けする事で絵柄の部分は釉薬で盛り上がり光沢を持ち、絵柄のない部分は白磁素材自身が露わになりしっとりとした質感を感じることが可能になります。
絵柄の凹凸や釉薬の有無により器の表面には様々なコントラストが生まれ、やきもののいろいろな要素が楽しめる器となります。
(1350度の本焼成により、絵柄、釉薬、土が溶け合いガラス化し光が透けるほど融合した釉薬銅版の器)
直接的な機能ではありませんが、私たちはやきものについて一つ信じていることがあります。
それは、縄文の時代から様々な素材が食器に使われながらも、現在、食卓には多くのやきものを選び続けて頂けており、その質感は、食においては何より愛されているのだと言う想いです。
そのために、私たち作る側は、素材を大切に、その力をしっかりと引き出せる器作りを試み続けます。
もっと、やきものの楽しさを知っていただけるように。
これらの想いをもとに開発したものが、今回ご紹介した深山独特の絵付け技法【釉薬銅板転写による下絵付け】です。
最後までご覧いただきありがとうございます。
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